私の世界で一番美しい疫病神
「は、はじめして……」
「でさぁ~あたしの彼氏がね~」
「キャハハ、やばい。超やばい~」
「あ、あの……!」
「……は?なに?」
ああ、だめだ。
「い、いえ!なんでも!」
……結果は惨敗だった。
当たり前だ。
人って、簡単には変われないんだよ。
「はあ……」
心が重い。
帰りの電車は、朝の通勤ラッシュと違って空いていた。
それが私をセンチメンタルな気分に更にさせた。
ああ、明日も大学がある。
当然だ。今日がやっと入学式だったのだから。
「…………」
電車の窓に映る自分を見る。
泣きそうな顔をしていた。ああ、情けない。
急に、着ているスーツがちっぽけに感じた。
大人の背伸びをしているような。
身の丈に合ってないんだよ、って言われているような。
「お母さん、私やっていけるかな……」
小さな呟きは、電車のガタンゴトンと響きに、呆気なく消された。
最寄り駅の改札を出ると、駅前は夕飯の買い出しをしている人たちで賑やかだった。
私も夕飯を作らなきゃいけない。
独り暮らしなんだから。
誰も、いないんだから。
「ママー!ぼく、きょうはカレーがいい!」
お母さんに唸る子供が、羨ましく思った。
カレーか。まあ、簡単だし、3日は持つし、いいかもしれない。
道を歩く親子から目を反らし、鉛みたいに重い足を持ち上げた。