これを『運命の恋』と呼ばないで!
「ターンオーバーできる便にしたら途中で具合が悪くなっても助かるねって話したんですけど、まさか、ここまで具合が悪くなるとは思ってもみなくて……」


グッタリしたままでいる先輩の元へナースが点滴台と液体の入った袋をぶら下げてきた。



「吐き気止めだそうです」


薬剤の種類を聞いてくれたみたい。
看護師は手早く血管に針を刺し、点滴の落ちる速度を確認して逃げて行った。


「この速さなら2、3時間程度で終わるでしょう。明日の夕方の便で出発しますか?」


「はい。旦那さんの具合が良くなれば…ですけど」


「次の便に乗る際は、酔い止めとアイマスクは必需品ですよ。機内のニオイで酔う人もいますから、マスクなんかも着用するといいですね」


的確なアドバイスをした後、大石先生は飛行機の時間だから…と言って病院を去って行った。



(ホントに救世主みたいな人だったなぁ)


ものも言えない先輩の側に付き添ったまま、何度も先生のことを思い出して過ごした。



あくる朝になって目が覚めた先輩は、清々しい笑顔を見せてくれたーーー。



「もう大丈夫?夕方の便には乗れそう?」


仕事初めは週明けだから余裕はある。
今日の便に乗れなくても、明日の便に乗ったら間に合う。



「大丈夫。今日は昨日よりも気分いいから」


確かに顔色は良くなったように見える。
やっと先輩らしくなった気がして、ぎゅっと体に抱きついた。


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