これを『運命の恋』と呼ばないで!
「昨日は困りましたよ?」


上目遣いに顔を見上げる。
英語が話せなくて困ってたところを、日本人の医師に助けてもらったんだと説明した。


「いい人でね、名刺も預かったの。大石先生っていう整形外科医らしくてフェミニストだったんだぁ」


燥ぎながらバッグの中を探った。
なかなか名刺が見つからず、奥の方をひっくり返した時だ。



「あっ!」


ガシャン!と嫌な音がして、ケータイが滑り落ちた。直ぐに拾い上げてみたけどーーー





「ウソぉ……」


液晶画面にヒビが入ってる。
コンクリートの床に叩きつけられたからだ。



「何やってんだよ」


先輩はまたしても呆れ顔になった。



「ホント……どうしよう……」


海外でも携帯って買い換えられる?
そもそもここで暮らす訳じゃないから、買っても困ってしまいそうだけれど。


「先輩の貸して下さい。両親と智花にだけは連絡しておきたいから」

「やだよ。新婚旅行に来てまで親に電話する気なんてねぇよ」


「えっ……」


ドキッとしてしまった。
先輩は真面目な顔で、私の方へ寄って来た。


「1日しか猶予ないけど、明日の便で向かうよう変更してあるんだ」


親にもナイショにしてるらしい。


「今夜こそなつみを可愛がる。昨夜迷惑かけた分、奉仕するから」


甘い言葉を囁いてキスされた。
ぽぉ…としてしまい、ケータイのことなんてどうでも良くなってしまった。



「うん……」


嬉しくなって抱きついて喜んだ。

その間、日本では大変な勘違いが起きてるとは知らず、私と先輩は二人だけの新婚旅行を楽しんでからホテルへと向かった。




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