これを『運命の恋』と呼ばないで!
(何も考えずに寝よう。明日からもまたいびられ続けるんだから)


モヤモヤとした気持ちを抱え込んだまま横になった。
悪夢こそ見なかったけれど、眠りが浅くて、寝ても寝ても疲れが取れないまま朝を迎えた。





「今朝も酷い顔してるな」


自販機の前で出会った男は、ブラックコーヒーを片手にぼーっと立ってる私に声をかけてきた。


「相変わらず寝不足が続いてるのか?」


今日は何だか少しだけ心配してるようにも聞こえる。


「寝不足なんじゃありません。昨夜は早く寝ました」


ただ質の悪い睡眠がずっと続いた。
それもこれも先輩が下手に私のことを助けたりするからだ。


「その割には毎朝コレだな」


紙コップの中身を指差された。


「若山はブラックコーヒーが苦手なのに何で飲むんだ?」


驚く様な言葉を吐いた。


「な…なんで知ってるんですか?」


思わず聞き返した。

確かに無理をして飲んでる。
どうしてそれを知ってるんだ。


「眉間にシワを寄せて飲んでたら誰にでも分かる。向かい側から毎日その顔を拝ませて貰ってる」


「向かい側から?」


(まさか……)



仕事ばかりしてると思ってた人は、さり気なく私の様子をチェックしてたといういことか。

そんな風に見られていたとは知らなかった。

先輩は一体どんなつもりで私のことを眺めてたんだろう。

教育係として、仕事ぶりを観察してたということだろうか。

もしかしてそうなら悪趣味としか言いようがないけど、他にも意味があるのなら……


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