よるのむこうに

「天馬、あんた、ずるくない?」

「だからなんだよ、レッドカード一発退場ってわけ?」


天馬は本当に時間がないのか、私の抗議を鼻で笑うとさっと私に背を向けてカーテンの向こうに入っていってしまった。

くそ……。あいつはよくわかっている。
スポーツの世界じゃルール違反は即退場だが、現実はずるくたってなんだってよほどの犯罪行為でない限り声が大きいものの勝ち、力が強いものの勝ち。そんなところがある。
天馬はそれがよくわかっていて、使えるものは自分のルックスでも相手の弱みでもなんでも利用する。総理大臣の名前は言えなくともそういうことには目端が利く。

私は悔しさに奥歯を噛みしめてパイプ椅子に座って腕を組んだ。
仕事が終わったら説教。絶対に説教する。今日こそ言いたい事を言ってやる。


三十分後、カーテンの向こう側から天馬が現れた。

何かの撮影が行われるのであろうことは予想していたが、出てきた天馬は裸の上半身にMA-1ジャケット、バイカーパンツという暑いのか寒いのかさっぱりわからないカジュアルスタイルだった。
その姿は服がいいのかいつもの彼よりもぐんと垢抜けて見えた。
普段の天馬は背の高いチンピラだけれど、プロの手で仕立て直された彼はやはり「モデル」だった。

「……っ……」

さすがモデル。
思わず声を上げそうになった私はあわてて両手で自分の口を押さえつけた。
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