よるのむこうに
景久さんは明らかに私とは育ちが違う。生活もたぶん違うだろう。
そういう人をただ羨ましいと見つめるだけではなく、こうして話して豊かさに慣れた人の目から見た世界を聞くことは自分の目にかかったブラインドを一気に引き上げてくれる。
実際に彼の言うとおりカリフォルニアに行くのは経済的に厳しいかもしれない。体が追いつかないかもしれない。
でも今の自分が置かれた状況を別の角度から見ることが出来た。彼と話したことで病気であること、将来の不安があることが少しだけ和らいだ気がした。
「ところで。どうしてこんなところに一人でいらっしゃるのですか。屋内にいたほうが涼しいですよ」
「ああ……。スタジオは少し冷えますし、私……少し、浮いているみたいだったから。
突然引っ張ってこられたので普段着のままですし」
私は自分のジーンズ姿に苦笑した。
「そういうことですか」
彼は私が浮いていたことについてお愛想でも「そんなことはない」とは言わなかった。
「彰久のお知り合いにしては落ち着いた方だと思っていました」
「浮いてますよね」
なぜ私があの現場にいるのか。礼儀がそうさせないだけで、目の前の紳士だってそれを疑問に思っているに違いない。
「今、僕は少し時間があります」
「えっ、」
「彰久があなたのことを少し気にかけているようだったから、僕も外に出たついでにあなたを探してみたのですが……、あなたはあまりあの現場に戻りたいとは思っていないようにみえます。そうですよね」