よるのむこうに
13、過去からの刺客
テレビ局のセキュリティってこんなのでいいのかな。
私は入館証一枚であっさりと地下ゲートを突破した天馬を見上げた。
天馬はまるで何度もここに来たことがあるかのような顔で堂々と廊下の真ん中を歩いている。
屋内だというのになぜかサングラスをかけ、A5サイズの案内用紙だけを持って、腰からウォレットチェーンだのピアスだのをジャラジャラいわせて歩く彼の姿は完全にチンピラだ。
ものすごい有名人や大物芸能人がやってくる(はず)のこの場所に、こんな中身ゴリラのモデルが入り込んでいいのか。
本当に何かの間違いじゃないのか。そして間違いがわかった途端吹き矢で眠らされるんじゃないのか。ついでに私も吹き矢を食らうんじゃないのか。
ただでさえリウマトレックスだのステロイドだの、薬まみれの生活を送っている私に吹き矢はカンベンしてほしい。
私は肩をすくめて周りをきょろきょろと見回した。
「ねえ、天馬」
「何」
「あれ、前田知子じゃない?元BKBの」
天馬は目を細めて私の目線の先を追ったが、興味なさそうに肩をすくめた。
「さあな、あんだけ同じ服きた女が並んでて見分けなんかつくわけねーだろ」
「それ完全にオッサンの発言だよ」
「オッサンで結構だよ、お前そんなことより肩冷やさねえようにしろよ」
天馬は私の腕に触れ、その冷たさにいやな顔をした。
「あ、あれ渡部拓哉じゃない?すごい大物っぽい、いや大物だよね」
「……聞けよバカ」
彼は大きな拳で私の頭を叩いた。もちろん本気ではないが、しかし骨ばったデカい拳の威力はなかなかのものだ。
私は女性でしかもぱっと見はわかりにくいが病人なわけで。気軽に殴っていい存在ではないはずなのだが。