よるのむこうに

私は眉根を寄せて天馬をにらんだ。
もともと私は人にこんな顔をして威嚇するような人間ではなかったのだが、チンピラと暮らしているとだんだんお影響を受けてしまうものらしい。

天馬は私の顔を見てふんと鼻を鳴らすと私の腕をつかんで歩き出した。


「今日は俺、ぜんぜん余裕ねえから、ちゃんとついてこい」

それは天馬が自分で言い出すまでもなく、私も気付いていた。

いつも出かけるギリギリまで出かける用意をはじめない天馬が朝、六時に起きてストレッチなどしていたのだからさすがに私も異変を感じた。

なんだかプロのモデルみたいじゃないか。とうとうプロ意識が芽生えたのか。

勝手にそう判断した私は彼のためになにかモデルっぽい朝食を用意してやろうと考えた。……のはいいのだけれど、結局何を用意すればいいのかわからないので、女性誌で紹介されていた美肌のためのグリーンスムージーとやらを作って出してみた。
天馬は一応それを飲んではくれたけれど、「マッズ」と一言漏らすことも忘れなかった。

「テレビ局で仕事だから緊張してるの?」

天馬は私を引きずるようにして歩きながら、ちらと私を振り返った。


「違う。
テメー、さっさと歩けよ足みじけーな」

短くないわ!いや、天馬やその周辺の人間に比べれば足も腕も首も胴も短いが、私はすべてにおいてこの年代の平均値をキープしている!モデルと一緒にするな!
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