よるのむこうに
「今日の仕事、別に難しいことはしなくていい。ほら、よくバラエティで見るだろ。有名人が無名だったころの友人や知り合い、学校の教師なんかが無名時代について思い出を語るっていう短いコーナー。
天馬はその友人の一人としてでるわけ。素人でもやってることだ」
「そう……なの」
「うん。今回特集が組まれる有名人はバスケットボールのプロ選手で、樋川亮輔。
アメリカのNBAで活躍している。ええと、ハリウッド女優のジェシカ・ウィンスレットってわかるかな。最近婚約したんだけど」
ハリウッド女優の名前まで出てくると、やっと私にも分かってきた。
「ああ、スパイものに出てた女優ですよね」
「そう。で、その樋川選手と天馬は昔、高校で先輩後輩の関係だった。
樋川選手はあまりメディアに露出しない選手なんだけど、天馬を出してくれるならって条件で今回バラエティへの出演をOKしたんだ。で、俺の会社に連絡が来たってわけ」
スポーツに明るくない私には樋川選手という名前を聞いたこともなかったが、なにやらものすごい人と天馬が知りあいだということくらいは理解できた。
「天馬はさ、結構勝手な性格だろ」
「本当にそうだね」
「バスケの有名校に入学するなりスタメンになって、他の選手に比べて技量がぬきんでていたのをいいことにチームプレイ無視で練習も出ず、勝手なことをしてばかりだった。
バスケは基本的には五人でプレイするスポーツだ。名門校ともなれば試合に出られない選手は先輩後輩関係なく何十人もいる。そんな中で勝手な態度を貫いたら当然反感を買うことになる。
樋川選手は天馬の才能を早いうちから見出してかなり庇ってくれていた。さすがに天馬もそれはわかっていたみたいで……樋川選手にだけはたまーにパスを出すこともあった。たまにだけど」
「へえ……あの天馬が」
天馬が団体行動をしているところなんて想像もできないし、たぶん本人も団体行動は苦手だと自覚しているだろう。