よるのむこうに

「彰久、何て顔してんだよ」
「天馬、」

彰久君は何か言いかけて、口をつぐんだ。その横顔には悔しげな表情が浮かんでいた。

私には悔しそうな彰久君の表情が信じられなかった。

まさか勝てるとでも思っていたのだろうか。相手はアメリカのプロバスケチームに所属する樋川選手なのだ。
天馬は確かにバスケ経験者だったのかもしれないけれど、現在は特に練習もしていない。プロでもない。
その天馬がここまで立派に戦ったのはすばらしいことだ。

天馬は賞賛されるべきなのに、彰久君は賞賛どころか屈辱に耐えているようにさえ見える。




「やることはやったぞ、もう帰っていいのかよ。
あー腹減ったしあっちいし……やってらんね……」

夕日を背に受けてだるそうに言いたい事を言う天馬は、もうすっかりいつもの天馬だった。
先ほどの輝きはもうどこにも見当たらない。

「……車で送るよ」

「いい。コイツと飯食って帰るわ」

「樋川選手、何て言ってたんだ?」

「ん?ああ。
もう二度と俺と会うこともない。ふっきれたってさ」

「……」

「勝手にこだわって、アメリカから日本まで来て、あいつ、馬鹿なのは変わんねえな」

「……」


彰久君は今までずっと頭の回転が速く、気持ちの切り替えだって早かった。私は彼のそんな姿しか見たことがなかった。
けれどその時の彼は自身の気持ちをを隠す余裕もないようだった。


「お前、それでいいのか」

「いいも悪いもねえだろ。俺はバスケはやめたんだ」

天馬はぴしゃりとそう答えると、私の手をつかんだ。

「お前、立ちっぱなしだろ、もう足が痛いんじゃねえの。おぶってやろうか」

私はゆっくりと首を横に振った。

「大丈夫。……彰久君と話すなら、ベンチで待ってるからちゃんと話しなよ」

「話なんかねえよ、思い出話なんて今ここでする話じゃないだろ」


天馬の投げやりな言葉に、彰久君は深いため息をついてうつむいた。
私達は彼のその様子に口をつぐんだ。
再び顔を上げた彰久君はいつもの彼に戻っていた。

「天馬、夏子ちゃんと待ってろ。車を回してくる」



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