よるのむこうに
家に戻ると、一日中締め切っていた部屋の中は呼吸も苦しいほど気温が上がっていた。
さっきまで彰久君の高級外車に乗って快適だった私達は顔を見合わせ、すぐに部屋中の窓を開けて回った。
とても部屋の中に居られず、ベランダで夜風の涼しさの中に逃れていると、天馬がベランダに出てくる気配を感じた。
「天馬」
彼は私の隣に立つと、私の頬に麦茶のはいったグラスを押し当てた。
「飲めよ、変な顔してるぞ」
「変かな。
ありがとう」
私は麦茶を口に含んだ。
その自覚はなかったけれど喉を通る麦茶の冷たさに渇きがいえていくのがわかる。おそらく私は天馬の言うとおり、軽い脱水状態だったのだろう。
「おう、」
彼は短くそう答えて自身は牛乳パックに直接口をつけてそれを傾けた。
しばらく二人で並んでそうしていたが、やがて天馬が静かにいった。
「今日は疲れたな。お前、足大丈夫かよ」
「うん、平気。薬も飲んでるし、最近は薬が効いてるのかなって思うことが多くなったよ」
「そっか」
「今日の天馬、かっこよかったよ」
彼は少し口元を動かした。
笑ったのかもしれない。
「……」
「バスケ、本気でやってるところをはじめて見たよ。かっこよかった」
「なんだよ、それ」
またバスケをしているところを見たい。天馬が瞳を輝かせているところを見たい。
そう言いたかったけれど、簡単に言えることではなかった。
理由は彰久君の話や樋川選手の態度から察することしかできないけれど、今、天馬はバスケを拒否している。
だから私は言葉の後半を飲み込んだ。
天馬がバスケを嫌っていることは残念だけれど、無理にやらせようとしてさせられるものではない。