よるのむこうに
「知り合いやったら話しやすいわ。
あのねえ、その石田和郎て子がねえ、あんたが地元に帰ってるって聞いて会いたいって言ってるみたいよ」
私は大きく目を見開いて母を見た。
石田くんと私は特別親しかったわけではない。あくまで同じクラスになったことがあるという程度の関係だ。それなのに、あえて「会いたい」と親を通して言ってくるということは、それは単に旧交を温めたいという以上の話、つまりお見合いの話であるように思われた。
「……え、でも私はリウマチで……子どもは」
薬をやめれば妊娠をすることは可能だけれど、薬をやめている間にリウマチが進んでしまってはいけないので、私は子どもを生むつもりはなかった。
「うん、それも叔母さんから話してみたんやけど、それでもぜひって。
石田くんねえ、一回結婚したんだけどお嫁さんが子どもさんを置いて出ていっちゃったらしいんね。
だから子どもが産めなくてもかまわんて。
それにあんた、産めないって決まったもんやないでしょう。リウマチが治ったら可能性はあるわけやし、先のことはわからんしね」
「そんな、結婚なんて」
いいかけて私は口ごもった。
母は親として私が心配だということもあるだろうけれど、兄夫婦の将来を考えて私を家から出しておきたいのだ。
私をなんとか嫁に出しておかなければ、父が店を引退したあとに私が兄の重荷になりかねない。
病気とはいえ、30過ぎた娘をいつまでも親元においておくのは兄嫁の実家やご近所に対しても聞こえが悪い、そういう思いがあるのだろう。
「今すぐ結婚なんて考えんでいいから、一回でも会って話くらいしてきなさいや、口を利いた叔母さんの顔もあるんやから」