よるのむこうに
十年以上前、私は東京の大学を志望した。両親は娘が地元を離れること、一人暮らしをすることに大反対した。
その当時の私は教師になる夢と大都会に出て行くという冒険に心奪われ、両親の言うことなどほとんど聞いていなかった。私ならできる、これといった根拠もなくそう思い込み、勝手に受験をして合格通知をタテに無理やり両親を肯(うべな)わせ、飛び出した。
今の私にあのときのような希望はない。リウマチを抱え、未だ自立できていない私の立場では私の身の上を案じ、また私を重荷にも感じている両親に何も言うことができなかった。
「結婚、なんて……向こうが嫌がると思うよ」
私はぽつりとそう呟いたが、絶対に会わないとは言わなかった。言えなかった。
ああ、兄もきっとこうしてバンドマンになる夢を諦めたのだろう。兄は弱いのではない、私よりも早く大人にならざるをえなかっただけだった。家と両親を取り巻く世間の目を私よりもずっと早く意識していた。ただそれだけのことだったのだ。
十五年ほど前の兄の気持ちが今頃になって切なく感じられた。