よるのむこうに
叩きつけるようにそう怒鳴り、天馬は私の唇に荒々しく自身のそれを重ねた。
私は驚いて身を引こうとして壁に頭を打ちつけた。しかし天馬は私を冷たい壁に押さえつけ、何度も何度も唇を押し付けた。
私は彼の激情に恐れをなして、それを拒むことも受け入れることもできず、まるで自分自身が壁と同化してしまったかのようにただ天馬の懐かしい肌の香りを呼吸のたびに感じていた。
たった数分ほどの口づけが、随分長く感じられた。
天馬はやがてため息をついて唇を離した。
「……戻ってこい」
「……え……」
今までものすごい剣幕で恨みをぶつけられていたのだ。まさかそんな事をいわれるとは思わなかった私は大きく目を見開いた。
「戻ってこい。また一緒に暮らそう」
「こ、殺さないの……?」
彼はうんざりしたようにきつい目を細めた。
「殺したいくらい憎んだこともあった。けど、……そんなこと、出来るくらいならここまでさがしたりしねえよ。
今、アメリカに行く話があるんだ」
私ははっと息を呑んだ。
あくまで憶測としてだけれど、少し前に天馬のチームを特集したスポーツ紙で、そろそろ天馬が海外のチームと契約するのではないかという話が記事になっていたのを思い出した。
やはり、移籍の話はあったのだ。
「19日までにお前が捕まらなかったら、その話は断るつもりだった」
19日。つまり明後日ということになる。
私は先ほどまで怯えきっていたことも忘れて声を上げた。