よるのむこうに

「どうして断るの!だめだよ、そんなの」


天馬と別れてから、バスケ関連の記事を読み漁るようになっていた私は、天馬と一緒にいたころよりも少しはバスケというスポーツの事を学んでいた。
アメリカのチームに移籍なんて、高校生のときからずっとバスケ一本を極めてきた有名選手でもめったにない話だ。樋川選手の到達した場所が天馬を手招きしている。
年俸だってきっと今の何倍にも、いや何十倍になる。


普通ならここ二年足らずの間に頭角を現したばかりの天馬にこんな話が来るものではないのだ。でも、来た。
これがどういう意味を持つのか、にわかバスケファンの私にだってわかる。一生一度のチャンスなのだ。棒に振るなんてありえない。

「アメリカなんか行ったら、お前を探せなくなる。遠すぎる」
私は言葉を失った。

「でも、もうお前は見つかった。一緒に……行こう、いや、連れて行く」

「そんな……だって。支えてくれる人が欲しいならちゃんと恋愛すればいいのに」


天馬はモデルとしては飛びぬけて人気があるというわけではなかったけれど、バスケットボール選手の中では飛びぬけて女性ファンが多かった。

彼がプロのバスケ選手として試合に出るようになってからというもの、彼の行く先々に女性ファンがつめかけ、スポーツ関連の記者や女性リポーターのインタビューもあった。出会いには事欠かないのだ。すでにけちがついた私なんかを探すよりも新しい恋愛をすればいい。

しかし私の呟きに彼は一瞬にして蒼白になった。

「ふざけんなッ!」

彼はその大きな手を私の顔のごく近くの壁に叩きつけた。その音の大きさ、彼の怒りで蒼白になった顔の恐ろしさに、私は身動きも出来なかった。
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