よるのむこうに


「骨折はしていませんね」

レントゲン写真を見た医師はそう言って椅子に腰掛けた。
私の膝の痛みはまだ続いており、膝を曲げることものばすこともできない私は診察用ベッドの上で顔をしかめていた。

「骨折……じゃ、ないんですか」
「ええ、ですが膝関節と足首に水がたまっていますね。それと、骨が……この真っ白なところは健康な骨なんですが、グレーがかっているところに腫れがあります」

「足が、腫れてるんですか?」

何か足が腫れるようなことをしただろうか。記憶を手繰る私の前で、医師はゆっくりと言った。

「……あなたの指、それは、昔からですか?」
「えっ?」
「右手の小指です。少し曲がっているでしょう?」
「……」


私は自分の手を広げて顔の前に出した。
指摘されてみると、確かに少し曲がっているような気がする。意識して指に力を入れるとぴんと反ってほかの指と同じように見えるが、力を抜くと第一関節が少し曲がる。

いつからこうなったのだろうか。少なくとも半年ほど前はこうではなかったような気がする。
医師は自覚のない私の様子に少し困ったような顔をした。


「私の医師としての経験からいって……第一関節が本人も気づかないうちに少しずつ変形するというのは、関節リウマチの疑いがあります。
とにかく血液と、膝にたまった水を抜いて検査をしてみないと正確なところはまだわかりませんが」
「そう、ですか」

関節リウマチ。
リウマチといえば老人の病気というイメージがある。

私は若くはないけれど、でもまだ29歳だ。
29歳でリウマチ?
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