よるのむこうに


彰久君は私を観察するようにゆっくりと見つめていたけれど、やがて話し始めた。


「天馬って言葉がキツいときがあるだろ。男同士でも流せるときと流せないときがあるくらい。女の子なら尚更怖いだろうと思うよ。
あいつと気まずいことになったんなら俺のところに来る?……ああ、べつに何もしないからそれは安心していいよ。なんだったらうちのマンションのゲストルームにきてもいいし、親父の所有する部屋も都内にいくつかあるから、その一つを使ってくれてもいい。
ちょっと離れてみるって気分転換になると思うんだけど、どう?」


優しい子だ。
こんな優しい子に心配をさせて、私は随分と情けない大人だ。
私はなるべく軽い態度で返事をした。


「ああ、そういうことじゃないんだ、喧嘩したわけじゃないの。
ちょっと私の一身上の都合があって」


彰久くんは真剣な瞳でまっすぐに私を見据えていた。

そういう彼の姿を見るのは初めてだ。私が知る彼はあくまで華やかで人好きのする、ある種の軽薄さのようなものをまとっている。華やかな業界で生きていくのに相応しい軽快さがある。
しかし、こうして少し込み入った話をしようとすると、とたんに彼の明るく楽しげな仮面ははがれ、隙のない聡明さがその美貌を彩る。

やはりこの若さで社長を名乗るというのは並大抵のことではないのだ。



「……一身上の都合が具体的になんなのかわからなきゃ助けてあげたくても手が出せないよ。
詳しい事情を話してくれない?それとも俺じゃ君の力にはなれないと思ってるのかな」
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