わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
宿の食堂でパンとスープの質素な朝食をすませ、ミント王国の一行は朝市に来た。
広場に整然と張られた白い帆布の屋根が壮観で、一行は感嘆の声を上げる。
その下に店がずらりと並んでおり、すでにたくさんの人が買い物をしていた。
「リリさま、あちらからまわりましょう。マックさま、いいですか?」
ハンナの指差す方は広場の入り口から遠く、比較的人が少ない。
ゆっくり見られる上に護衛がしやすいと、マックは大きく頷いた。
朝市に出店されているのは地元産のものは勿論、近隣国のもの、一度しか耳にしたことがないような国のものまで、いろいろある。
店主の髪も肌色も店ごとに違い、リリアンヌたちはいちいち驚いたり感心したり、どれもこれも珍しく興奮は最高潮に達する。
店主たちも、興味深そうに話しかけてくる彼女たちが可愛らしく思え、にっこり笑顔で応対する。
生憎の曇天だけれど、リリアンヌ王女の周りは明るく、垂れ込める雲も吹き飛ばす勢いだ。
そんなふうに楽しんでいるのは彼女たちだけでなく、騎士たちも王女の警護をしつつ地味に市場見物を満喫している。
トーマスたち若い騎士は、マックの許しを得て肉の燻製やナイフなどを購入して静かに喜んでいる。
買い物にはまったく興味ないマックだけは、虫一匹も近づかせぬ迫力で、王女の身辺を警戒しているが。