わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
「あ!リリさま、反物を一つ買ったんですよ。国に戻ったらドレスにしますので、楽しみにしててください!」
ほくほく笑顔のハンナを見てリリアンヌの心が和み、ついさっきまで感じていた気恥ずかしさが薄らぎ笑みも漏れる。
「ええ、楽しみにしてるわ。さあ、他のところにも行きましょうか」
「はい!リリさま!」
朝市は、時間とともに人が多くなってくる。
一行は人込みを避けつつ歩き、小さな布小物を扱うお店に入った。
夕日色の髪と花柄のワンピースに花のネックレス。
かわいらしくて男性の視線を集めるリリアンヌだけれど、ただ一つ、別の感情を持って彼女を見つめる瞳があった。
それは男性だけれど若くないため、マックの警戒も薄れており簡単に傍まで近寄っていく。
「お嬢さん、また会いましたね?」
「え・・・?」
突然声をかけられて顔を上げたブラウンの瞳に、くしゃっと笑う初老の男性の姿が映る。
「あ・・・」
それは昨夜の遊技場で賞金をくれた男性だった。
昨日の!と言い掛けて慌てて口をつぐむのを見て、男性はまたくしゃっと笑って小声で言った。
「その様子、昨夜の事はお連れさまには、内緒なんですな?」
無言で小さくうなずくリリアンヌとその後ろにいるマックをチラ見してニヤッと笑った男性は、手近な布小物を取って「お嬢さんには、これがオススメだよ」と握らせ、静かに立ち去っていった。
その背中を、不思議な人だと思いつつ見送っているとハンナに話しかけられて再び買い物に夢中になり、リリアンヌは次第に男性のことを忘れていった。
そのあと道中の食事のためにいくつか食材を買い、一行は宿へ戻った。