わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
トーマスが軽々とメリーを抱き上げて馬に乗せ、自分もひらりと乗って手綱を握る。
そして、密着した状態でもメリーが楽なように、さりげなく体の位置調整をした。
「じゃあ、行ってきます。向こうで合流しましょう」
トーマスはメリーの体を腕でしっかりと固定し、ゆっくり馬を走らせた。
遠ざかる馬の蹄の音を聞きながら、リリアンヌは羨ましいと思ってしまう自分を戒めていた。
自由に人を思い、隠すことなく表現できる。
王女の自分にはできないこと。
メリーのドキドキする気持ちは、今のリリアンヌには十分に理解できる。
もしもここに突然レイが現れて、“俺と一緒に来い”などと言って馬でさらってくれたら、きっと抵抗できない。
逆にうれしいと思って、どこまでもついていこうとするだろう。
そうなったらいいなと思うが、それは国に背く行為で、決してしてはいけないことだ。
つい夢見てしまうが、現実には有り得ない。
レイにとって自分は、通りすがりに会っただけの、困っている商人の娘でしかないのだ。
たまたま助けただけで、特別な感情など抱いていないはず。
この思いは誰にもさとられてはいけないし、断ち切るしか道はないもの。
リリアンヌはメリーに自分を重ね合わせ、思いがトーマスに通じて叶うことを願った。
「ではリリさま、我らも身支度を整えたら出発いたしましょう」
マックの言葉で皆は宿の中に戻り、いつものように出発した。