夫の教えるA~Z
始めから期待して、自分の分も用意していた私は、イソイソとローテーブルを回り、お隣へ腰かけた。
 
フワリと漂う爽やかなグリーン・ノーツ。彼は男の人なのに、良いニオイがする。

…大好きだ。

スリスリしたくなるのを我慢して、気取った風で、彼と同じブラックコーヒーに口を付ける。
年上の彼に、子供っぽいと思われたくないの……

彼は背凭れにウ~ンと伸びをしてから、いつもの蘊蓄話を始めた。

「くすぐったい、とカユイは違うんだそうだ」
「そりゃあそうでしょう」

「『カユイ』は『イタイ』の仲間で、『くすぐったい』は『気持ちよい』の仲間だそうだ」
「フムフム」

「しかも!
『くすぐったい』は、気心の知れた、親しい人でないと、そう感じないそうだ」

「ホー」

生返事をしつつ、ホンの少し間合いを詰める。幸せだ。

「…しかし一方では、罪人への刑罰や責め苦として、“擽りの刑”なんてのもあったんだって」
「それは…穏やかじゃないですねぇ」



「……オカシイとは思わないか?」

 
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