夫の教えるA~Z
……

「奴の言葉に甘えることにしたよ。
まあ、年明けには多分フォローが必要だろうけどな」

苦笑いのあと、彼は続けた。

「君のおかげだ。
君が病院で嗜めてくれたから……

腹を縫われてた時は、ヤツが2度と社会復帰できないようにしてやるつもりだったんだけどな…
そうしたらヤツ、すごく感激したらしくてな」

そんなつもりじゃなかったんだけど…

考えていたところに、彼はまた続けた。

「その後からさ。
この話がどこからか会社に広まったらしい。
赴任してからずっとあった、支社内の俺への反発みたいなものが無くなった。
そうしたら、やることなすこと上手くいくようになってきて……

仕事が楽しかった。
楽しくって…つい忘れた。
一番大事な君の事を……」

ひくっ。
彼に背を向けたまま、私は息を呑んだ。

あくまで低姿勢に、それでもありったけの熱情を込めて彼は私に問いかけた。

「君は……俺になくてはならないヒトだ。
…君に触れさせて…くれる? 
君さえ良ければ、抱き締めたいんだけど」

昔ならばいざ知らず。
彼の腕の中がどれだけの安心をもたらすかを知っている今、
それはとても魅力的な言葉だった。

“ギュッ” てされたい。
待ちわびた1月分の “ギュッ” 。

だけど……

私の心にわだかまるトゲトゲした感情は、それを簡単には赦してくれない。

「イヤ!
他の女の子と同じようになんて……されたくないもん」

私は彼のリーチから逃れるようにベッドの脇へと転がった。
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