夫の教えるA~Z
 十数分後___

「いやあ、トーコが快く引き受けてくれて。ボクはとっても嬉しいよ♪」

「…ハア…ハア…」

 結局 “ウン” と言わされた私を、彼は満面の笑みで見下ろした。

「じゃ、ボクはこれからシャワーを浴びてくる。
 お礼と言うにはおこがましいが、せめて今夜は精一杯、君のお相手を勤めよう。
 ベッドルームで待っていなさい。
いいね?」

 ビシッとキメ顔でこちらを指差す。

  何が “お礼” だよ。

 テーブルに突っ伏したまま、それでもコクンと頷くと、彼は鼻唄を歌いながらドアの向こうへと消えていった。

 ううっ、クヤシイ。

 結婚してからというもの、アメとムチとムチにより、着実に彼に飼い慣らされていく気がする。

 一体私は、いつまでヒトとしての尊厳を保っていられるんだろう___
 

 でも……待てよ。

 私は付していた頭をムックリもたげた。

 ヤツの不埒な色仕掛けで、まんまと籠絡されたのはシャクだけど。

 スノーボードの練習が目的とはいえ、彼とお泊まりで旅行だなんて思えばこれが初めてだ。

 恋人期間は当然皆無、新婚旅行もなかったし、実果ちゃんの結婚式の時だって日帰りだったし。

 
 元々が楽天的にできている私、そうなると何だか急に楽しみになってきて、ピョイッと椅子から跳ね起きた。

 そうして、彼の鼻唄を引き継ぎつつ、お皿を片付けにかかるのだった。
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