夫の教えるA~Z
一息ついて、話続ける。

「もともと単純で…気取らないタイプだと思っていた君がさ。
 結婚してからはどこか遠慮して、大人ぶって。
 まあ、ただでさえ年上だし、上司だったし…それでもいいかとも思ってたんだけどな。
 あのクリスマスの日(※)に君がキレて…ああ、無理してたんだって気がついたよ。

 今から思うとあれがかえって良かったんだな。なんつーか、見えない壁が…緊張が解けたっていうの?」

 彼は、撫でていた手を止めると、慈しむように目を細めた。
 
「…これからはもっと、泣いたり笑ったり。素のままのトーコを見せて欲しい…なんて」

 サスガに照れ臭かったのか、バツが悪そうに窓辺へ視線を逸らすと、彼は再び手を動かし始めた。


 「アキトさん…」

 言われてみると。
 確かに私は、気を張っていたのかもしれない。オオカミさんに近づこうと、嫌われまいと背伸びして、イヤなことも知らんふりして。

 気持ちがなかった分、会社にいた頃はもっと楽に接していたんだろう。


 そっか、そんな風に見ていてくれたんだ。


「アキトさんっ」
 
 すっかり嬉しくなった私は、彼の胸に思いきりダイブした。
 グリグリと頭を擦り付けると、彼は痛そうに顔をしかめた。

「うごっ、打ち身が…トーコ、もうちょい優しく…」
「大好き…」
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