夫の教えるA~Z

 いきなり計画が狂ってしまった。

 しかぁし。
 そんなことで怯むトーコではナイ。
 何せチャンスは、あちこちに掃いて捨てるほど転がっているのだ。

 コンコン。

「お邪魔しマース」

 夕食をトレイに乗せ、再び彼の部屋の扉を叩くと、彼は服も着替えずにデスクに着いていた。

 私が背中からそーっと近づいても、書類に集中している彼はさっぱり気づかない。
 
 お仕事モードのアキトさんを見るのは久しぶり、仕事を辞めて以来。
 集中してる男《ヒト》の背中って…ちょっぴりセクシー。
 
 はう~~…
 
 「……トーコ、邪魔」
 思わず張り付いていた私は、冷たく払い落とされた。 

 うう、ヒドイ。

 だが、トーコは負けない。
 次はお淑やか良妻風に、白い割烹着も装着済みだ。

 「あの…夕食、お持ちしましたヨ?」
 
 しずしずと、後ろのサイドテーブルを指差すと、

 「ああ、ありがと。置いといて」

 彼は素っ気なく答える。

 「あらあら、アナタ。そんなに根を詰めすぎちゃいけませんよ。『お腹が減ったら戦が出来ない』ってね」

 
 私はオホホと笑ってみせた。
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