夫の教えるA~Z
 むっくりとベッドから起き上がった私は、クローゼットに向かうと、出掛ける準備を始めた。

 アキトさんの部屋をノックし、一声かける。

「ちょっと買い物行ってくるね」
「………」

 相変わらず返事はない。
 でも、これでいい。

 彼は今、集中しているのだ。

 今日はこれから買い物行って、時間があったら映画でも見て、ついでにジムに寄って帰ろう。
 そうだった。
 
 どんなに好きな人とだって、毎日毎日ベタベタしてたらイヤになる。
 何かに一生懸命なとき、人は自分を放っておいて欲しいものなんだ。
 
 人には、適当な距離ってものがある。

 考えてみれば、アキトさんもそうだった。いつもベタベタにくっついてくるように見えて、私が別なことに集中してるときは、新聞や本読んだり、別のことをしている。

 アキトさんは本当は、私の構って欲しいサインを見つけてから、寄ってくるんだ。

 だから私は彼のことが好きなんだ。
 彼にちょっかい…かけられたいんだ。


 今日の私、ちょっとうざかった。
 自分の都合で、彼が他のことしてるのに、くっついてって…
 
 せっかくの空いた時間だ、一人で楽しめるようになんなきゃね。
 自分に依存してばっかないで、一人立ちしてる人間じゃないと、お互いに魅力を感じない。
 近づくときは相手の気持ちを思いやって、だね。

 あれ、今私、ちょっといいこと言ってない?
 


  
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