夫の教えるA~Z
「……ああ。
全く同感ですよ。どうして束縛したがるもんなんですかね。夫婦でも一歩家から出れば、その行動をいちいち管理なんて出来るわけもないのに」

もっともうちの場合は、“つけとけ”ってウルサく言ってんの、俺なんだけどな…
(トーコは忘れっぽいのだ)

裏腹な言葉を吐いた俺に、彼は心底安心したようだった。

「ははっ。なーんだ、やっぱり大神さんもか。何となく似たタイプかなとは思ってたんですよ」

「ただ…」
「え?」

「うちの姉なんかは、俺と違って正義感強いっていうか…
昔から、弱いほうの味方。曲がったことは大嫌いなんですよ」

「はあ…」

少しばかり強張った返事。
俺は春日から目をそらすと、柱にかかった時計をぼんやりと眺めた。

そろそろ時間だ。

「だから。
一旦自分がそんな状況に堕ちれば、とても苦しむんだと思うんですよね。
そのくせ男を好きになると、人一倍熱をあげるタイプですし。
罪悪感っていうやつですかね。
その狭間でいっつも家族に隠れて泣いてんです。
ま、自分がやってるくせにって、俺には全く理解できませんけどね。

ただね、
弟としては_____
女の前では指輪外すとか?女の前でヨメを悪くいうとか?
相手の男の方にもそんな、思わせ振りなことはしないで欲しいって願うばかりなんですがねえ」

春日《やつ》は、しばらくの間黙っていたが、やがて元のように爽やかな笑顔をつくった。

「あー…、何いってんのか良く分かんないんすけど。
あ、もう時間ですね。
それでは、どうも、お疲れ様でしたー」

彼は素早く席を立つと、わざわざ自分でドアを開け、俺に退室を促した。
ため息とともに、俺も黙って立ち上がる。

すれ違いざま、

(あんたもさ、ひとのこと言えるわけ?)

やつの低い囁きが、聞こえた気がした。
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