夫の教えるA~Z
「さあ、どうぞ。
ああ、そのまえに座らなくちゃね。立ち話もアレだから…くすっ」

彼女の一瞥で、ストンと身体の力が抜けた。
用意されていた椅子にそのまま崩れ落ちるように腰掛け、彼女と対面に向き合った。

どういうわけか、彼女はやたら嬉しそうに、目を爛々と輝かせている。
「さあ」
「ああ、どうも。さっきから喉がカラカラだったんだ…」

お茶に口をつけようとして、ふと我に返る。

和んでる場合じゃねえ!

「…って、俺は別に茶を呑みに来たんじゃない。
籠手川さん、君は一体なぜ、俺(または彼女)にあんな嫌がらせをするんだ?
言っとくが俺は、君にそこまでのことをした覚えはない。
もし俺が何か忘れてるようなことがあれば…」

彼女の瞳から輝きが消えた。
みるみるうちに表情が失せてゆく。

ちょっとコワい…
が、ここでビクついてはいけない。だって、女の子に対してそんな態度、失礼だろ?

「…何よつまらない。ねえそれ、飲まないの。せっかく淹れてあげたのに」

「君が、答えてくれたら飲むよ。
『つまらない』とかそういう問題じゃないんだ。なあ、君が思う以上に、俺達はとても困ってる。
頼むから率直に答えてくれ。
君は一体、何をそんなに怒ってるんだ?
昔別れた時だって、君は"わかった"って。"そうだろうと思ってた"って言ったじゃないか」

彼女がゆらりと立ち上がった。
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