夫の教えるA~Z
「ねえ、0.5円じゃどうかなあ、発注10倍にするからさあ」
「いや~厳しいことを仰有いますね、さすがは経営の鬼と呼ばれる槇原社長、まったく頭が下がります」

生臭い商談を続ける彼の後ろに回ったわたしは、(マル)型の手で彼の頬をぎゅうう、と押した。
…本当はぺろーんと引き延ばし、カエル顔にしてやりたかったのだが…
指が使えないので仕方がない。

さあ見ろ、これが、お前らが日頃黄色い声で持て囃し、チャラチャラと調子こいてきた男のヘン顔だぞおおお!!

「でもまあ、さずがに0.5では、弊社(うち)が持ちません。ただ、03でしたらなんとか…」

しかし彼は、私の攻撃には全くの無反応で、そのまま商談を続けている。
一瞬、上手くいっていないのかと思ったが、それはない。
なぜなら、向こうのハ〇チャビンが、今にも吹き出しそうな顔をしているから。

ヘン顔攻撃が、彼にあまり響かないので、次に私は、彼の椅子に手を出した。
はじめは後ろから椅子をガタガタさせて、だんだんずらすと、目いっぱいの力でお尻から引っこ抜く。

てやっ!

支えをなくした彼が、無様に尻もちをつくと思いきや…

な、なんだコイツ!!

なんと”空気椅子”をしたまま、涼しい顔で会話を続けているではないか!!

恐るべき大神秋人。
連日連夜のおエッチで鍛えた腰力は、決して伊達ではなかったようだ…

と、ここで、司会者のウザい突っ込みがはいった。
「おおっとタ○ワちゃん。さすが女の子。新婦のお友達のイケメンさんを気に入ったようですよ~」

キャーーーっ。

会場に黄色い声が飛ぶと、彼は頭を掻きながら照れたフリでそれに応えてみせている。
とても腹が立つ。
(ってか、女の子だったのね、このこ)

ああ、何て屈辱的なんだろう。
大神(ヤツ)のわざとらしいジェスチャーに心を煮えたぎらせながらも、イヤイヤ、ハズカシイのポーズをしなければならない己のサービス精神を呪う。
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