夫の教えるA~Z
わたしは、彼のテーブルから3メートルほど後ずさると、頭上(てっぺん)のとんがりを彼に突き出し、前傾姿勢を取った。

ブルン、ブルン。
さながら闘牛の如く、鼻息も荒く片足を蹴りあげる。

ハゲ○ャビンの背中ごしにチラッと見えた彼が、少しだけ目を見開いた気がした。

ふふふ…
さあ、これだけの攻撃体制をとれば、いかにヤツとて無視も出来まい。

刺され、頭の上のヤツゥゥッッ!
食らえ、正面突破の頭突き攻撃ぃ~っっ!!!

わたしは、彼に向かって猛然とダッシュをかけた。

と、どうしたことか、自分がおかしな方向に傾いている。

しまったと、気づいたときには遅かった。

ただでさえバランスを取るのが難しいのに、さっき動きすぎて、平衡感覚が狂ってしまったんだ。
その上、視界が狭いときたから大変だ。

大神秋人に突っ込むどころか、頭から床に落ちてゆくわたし。
「おーっとどうしたぁー?え、
た、タ○ワちゃんっ!???」

司会者の声が、やけに遠くに聞こえる。
狭い視界、暗闇の中、時間がスローモーションのようにゆっくりとまわってゆく…

「あ ぶ な い ぃ ぃ っ ! ト お お コ お お お ~ ~ ~ !!」

ガシッ。

わたしの転落は、寸でのところで止まった。

「はーっ、はーっ、…」

わたしは、いつの間にやら席を飛び出していた秋人さんに、しっかりと抱き止められていた。

トーコ+タワワちゃん、80キロはゆうに超す重量を、彼はふらつきひとつなく支えている。

「大丈夫か」

コクンと頷くと、頭の被り物がゴロリと、床に転がり落ちた。

「トーコ…」
壇上から、実果ちゃんの驚く声が聴こえる。
それを聞き付けた司会者が、上手くまとめてくる。

「な、なんと、タ○ワちゃんから現れたのは、新婦のお友達でした!
見事にキャッチしたご主人も、先輩夫婦として、素晴らしいアイの形を見せて頂きました
さあ、皆さん拍手を!」

パチパチパチパチ…


着ぐるみ姿にお姫様抱っこのわたしは、気まずく手を振りながら、観衆に向かって苦笑いすることしかできなかった…
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