夫の教えるA~Z
「トぉーコぉー!」
「実果ちゃあぁ~ん!」

ヒシッ。

「アハハ、君ら相変わらずだなあ…」
路上で抱き合う私たちを横目に、白木君が苦笑する。

明日、新婚旅行代わりの小旅行に旅立つ二人のため、少し早めの夜9時には、二次会が終わった。
これから、実果ちゃんと白木君は披露宴を挙げたホテルに、私たちは、彼女が別に取ってくれたホテルへと別々に帰ってゆく。

今宵、最後の別れというわけだ。

「トーコ、今日はホントにありがと、遠くから来てくれて。余興にはちょっとビックリしたけど」
「あ、ははは…ううん。じゃあまた。実果ちゃん幸せに、ね」
「あははーそっちこそ」
ニッコリ笑っていた彼女は、抱き着いている手の向きを急に変え、ヘッドロックをかましつつ、耳元で声を潜める。
(い~い?あんた大神さんのこと、絶対逃しちゃだめだからね?今日だって、あんなバカなことして、もうヒヤヒヤしてたんだから!
友として、これだけは言っとく。
トーコね、大神さんに捨てられたら、危なっかしすぎるアンタの面倒なんて、誰もみてくれないんだから)
(う、だって~…ヤツがさ、あまりにもほかの子にいい顔ばっかりするからつい)
(”つい”じゃないの!大神さんって、どう見てもトーコのことメチャクチャ好きじゃないの。マジラブオーラがダダ漏れてるじゃない。だから、周りにいたほかの子も嫉妬しちゃうの。だからトーコに意地悪しちゃうの。
…もう、どうして分からないかなあ)
(むう…)

飲めないくせに、お酒の席の雰囲気だけで酔っぱらえる彼女は、実はかなりの説教マニアだ。(あ、普段は違うのよ?)

”そんなの、分かるかあ!”と心の内で叫びながらも、グイグイ絡みにくる彼女に困っていたところ、横から、旦那2人の会話が流れてきた。

「いやあ、大神支社長が来てくれるなんてボク、同期にも鼻が高いですよ」
「いや、こちらこそ。呼んでくれてありがとう。白木君の噂はかなり色々なところから聞こえてきてるんだ。特にあの、東欧専用顧客応対アプリ。あれの開発はホントにすごかった。
そのうえ、あんなに美しい女性(ひと)を独り占めして…」

キラキラと、完璧に作り上げた微笑みを投げかけてくる彼。
私は彼女の耳に一言囁いた。

(…ね?)
(ああホントだ、確かにムカつくわ)

実果ちゃんに納得してもらえたところで、わたしたちは二人に本当にサヨナラし、それぞれの宿に向かった道を歩き始めた。

お酒で火照った体には、冬の夜風も心地よい。
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