夫の教えるA~Z
「だからさー、私もきっぱりと言ってやったのよ!"うちはそういうお店じゃありません"って」
アッハッハ…
お酒が入った夏子さんは、とても陽気だ。
いつもさばけた調子の彼女だが、さらに屈託なく、サービス精神を振りまく。この分だと、松田君も追い返されることはなさそうだ。

よかった。

「そういえば最近、クッキングの方はどうなったんです?こないだまで頑張ってたじゃないですか。ホラ、一緒に栄養士さんの家にお邪魔したりして(※P,Qのお話ですよ!)…」

「……。あーあれね、ダメダメ。もう止めたわ、向き不向きって、やっぱあるのよね。私には向いてないみたい」
「む、そうですか…
あ、そういえば夏子さん、ここにいる松田君は、お料理がとっても上手なんですよ、ね?松田君」

よしいけ、松田!
ここに来る前、私は彼にしっかりレクチャーしておいた。夏子さんの好きなタイプは、”お料理&お掃除男子”。ただでさえマイナススタートなのだから、たとえハッタリだとしても、しっかりアピールするようにと。

「あ、は、はいっ。一番得意なのは、ほうれん草のバター炒めですっ」

はい違ー--う。それ、小学校の家庭科で一番初めに習うヤツだからー--。
余程緊張しているのか、お酒もさほどはいってないのに顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせている松田を睨む。

「…ふ~ん」
酔眼の夏子さんは、すでに興味をなくしている様子。

「勿論、それだけじゃないんですよ~、ね、ほら彼、ひとり暮らしが長いから、大抵は自炊しているらしくて。最近では、かなり本格的な創作的な料理を」

私は、バンと隣の松田の背をたたいた。がんばれ松田!(ちょっとわざとらしかったけど)お膳立てはしてやったぞ。

「は、はい!一最近ハマっているのはカップ麺の残り汁にご飯を入れて、ふやかしてから食べるやつです!あれが以外に美味しくって…」

はい違ー-う、それ、身体にあかんやつだからー--。

頭を抱える私の前で、しかし、夏子さんはカラカラと笑った。

「あっはは、あのね松田君。それは料理とは言わないの。…でも、いいんじゃない、かな。まめまめしく何でも出来ちゃう人もいれば、出会っていきなり無礼発言やらかす君にも、きっと君の良さがあるわけで」

…お?

「ははは、はいっ。僕、僕頑張ります!」
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