夫の教えるA~Z
「こーんにーちわー!!」

玄関先で元気よく声を上げると、程なくして奥からパタパタとスリッパが鳴った。

「トーコちゃんいらっしゃい、さ、あがってあがって…と、秋人(あいつ)は?」  

「あーっと、仕事で遅くなるみたいです」

「そう、まあいいわ。来て、待ってって言ったのに、もうすっかり始まっちゃってるの」

迎え出てくれた夏子お姉さんの足取りが、心なしか弾んでいる。

リビングダイニングに入ると、
普段4人がけのテーブルに、もう一つ小ぶりのテーブルがくっつけられて、ふたつ、椅子が足されていた。その上には、お寿司にお刺身、ザンギ唐揚げ、サムギョプサル、でっかいホールサラダに何故かチャーハン、手作りのチーズケーキ、ビールにワインにマッコリと、あらゆる国のご馳走とお酒が不思議な均衡を保って並べられている。

アルコールが入り、すっかり赤い顔をしたおじさん(アキトのお父さんをトーコはそう呼ぶ)と、やはり真っ赤な顔の松田クンが並んで座っていた。

「あらトーコちゃん、いらっしゃい」
「おー、トーコちゃん待ってたぞー」

アキトの言っていたとおり、おじさんとおばさんは上機嫌だ。

「あ、どうも」
本日の主賓である松田クンは、少しばかり緊張しているものの、やはり嬉しさを隠しきれない様子。

きっとこの人のいい家族の混じり気のない歓迎を受けていたんだろう。
ちょうど1年前の自分みたいに。

そこにある幸せな空気に、トーコはじんわりとした暖気を感じていた。


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