ツインクロス
その扉は、引き戸のように横に開く仕組みになっていたが、本棚と一体になっている為、かなり重かった。
(この扉が確か、静脈認証で開くって言ってたやつだよな?…でも、それにしては随分…)
もう少し近代的なものを想像していたので、少し拍子抜けした感はある。
(でも、鍵はどうなってるんだろ?…何処に…)
今、目に見えて扉と分かるのは鍵が開いているからだ。閉まっている場合は、きっと見た目では簡単には判らないのだろう。
(前に来た時は気付かなかったって、アイツも言ってたし…)
でも、何処かに認証装置が隠されている筈だ。
冬樹は、扉周辺の本棚をよく調べてみた。
すると…。

「あった。これだ…」

幾つかの本を取り出してみると、本棚の奥の壁にカメラのような物が設置されていた。
(お父さんが、こんな物をわざわざ据え付けていたなんて…)
冬樹は、そっとその装置に触れてみる。だが、電源が入っていないそれは何も反応を示さない。
(特に傷つけられた様子もないし、壊されている訳ではなさそうだ…。きっと、電気が通っていないと鍵も扉も動きはしないんだろうな…)
だが、それは逆に…実際にこの扉を開けた者は、この場所とその仕組みを知っていて尚且つ開くことが出来た…ということだ。
(でも、電源はどうしたんだろう?もしかして、ブレーカーを上げればすぐに電気は入るのかな?)
後で調べてみようと、冬樹は思った。

(それにしても…。『長男・冬樹に鍵を託す』…か…。いったいどうして…)

思わず自らの考えに沈みそうになり、我に返った。
(とりあえず、中の部屋を見てみよう…)
重たい本棚の扉を、力尽くで押して開けて行く。
何とか自分が通れる幅にまで動かすだけでも、相当な労力が必要だった。

「ふぅ…、何とか、開いた…けど…」
空気の流れのない籠った室内はとても暑く、すっかり汗ばんでしまった。
冬樹は額の汗を拭うと、身体を横向きにしてギリギリの隙間を通り抜け、その部屋へと入って行った。
「…狭い…」
そこは部屋…というよりは、資料棚が一つあるだけの物置といった感じだった。様々な本が納められている書斎とは違い、そこには父の書いた資料などが保存されている。机より少し高い程度の棚の上に、幾つかのファイルやノートが乱雑に置かれていた。
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