ツインクロス
冬樹は野崎の家までやって来ると、まずは一階にある全ての窓を開けて回った。現在は電気が来ていないので、エアコンも扇風機も使用できない中、単に暑いから…というのもあるが、実はそれ以外にも理由がある。前回この家に来た時のことが、どうしても忘れられないのだ。
(アイツは警察に捕まったんだし、もう心配ないとは思うんだけど…)
変に閉め切っている家の中で、また誰かが潜んでいたらと思うと、それは恐怖でしか無くて。逆に全部開いている方がこの家に自分が居ることも周囲には分かるし、助けを呼ぶにも追い出すにも都合が良いと思ったのだ。
目の行き届かない全部の窓を開け放つのも、ある意味無用心なのかも知れないが…。
(今更、盗られてマズイような金目の物なんて特にない…ハズ…)
冬樹は、リビングを見渡して一人頷いた。

「よし。じゃあ…行くか…」

一人呟くと、リビングテーブルの上に置いておいた手提げの中から、LEDライトを二つ取り出した。一つは自立式で置いておける、スタンドタイプの物。もう一つは懐中電灯式の物だ。
(これがあれば、何とかなる…かな?)
その二つを持って、冬樹は父の書斎へと足を向けた。
今日この家に来たのは、あの部屋を少し調べてみようと思ったから…。
窓のない部屋を調べるには明かりが不可欠なので、しっかり準備をして来たのだ。

いつも鍵が掛かっていたその扉は、前回と同様に鍵は開いたままだった。
「………」
今回は誰もいないと頭では解っていても、その入り口に立つと緊張して思わず一歩を踏みとどまる。
冬樹は持ってきたライトを両方点けると、部屋の中を照らした。すると、それなりに周囲の様子が分かるようになる。
冬樹は小さく息を吐くと、意を決してその部屋へと足を踏み入れて行った。

室内は、然程広くはないが、いかにも書斎…という雰囲気で奥と右側の壁の殆どが作り付けられた本棚になっていた。
「…すごい…」
数え切れないほどの本。
やはり仕事の関係上、薬学関係の専門書が多い気がする。
冬樹は、スタンド式のライトを机の上に置くと、手元の懐中電灯で周囲を照らした。
(アイツが言ってた隠し扉は何処だろう…?)
暗くて分かりにくい部分をよく照らしながら探していると、それはすぐに見つかった。
本棚の一部がずれて、隙間が開いていたのだ。

「…これが、隠し部屋の扉…?」

冬樹はそっと、その扉に触れてみた。
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