ツインクロス
早朝から出掛けて丸一日海で遊び倒し、冬樹達が自宅の最寄駅に着いた頃には既に夜の10時を回っていた。
この駅を利用しているのは冬樹と雅耶と長瀬のみで、他の三名は別の駅でそれぞれ降車する為、車中で別れて来た。

「すっかり遅くなっちゃったなァ。でも、楽しかったー♪」
長瀬が満足気に伸びをする。
それを横で、雅耶も「そうだな」と笑顔を見せている。
「冬樹チャンも楽しかったでしょ?行って良かったよねっ?」
普通に無言でいただけなのに、何故だか詰め寄って同意を求めてくる長瀬に。
「うん、まぁね…。朝のは最悪だったけどね」
本当はすごく楽しかったけど、最初の強引さがあまりにもヒドかったので、一応釘を刺しておく。
でも、長瀬は全然気にしていないようだった。
「喜んで貰えたなら良かったっ♪またどっか遊びに行こうぜっ。計画立てるからさっ」
そう嬉々として語る長瀬に、
「今度はホントに、突然押し掛けとかナシだからなっ」
もう一度、冬樹は念を入れて釘を刺した。
「了解っ!心得ておりますっ」
「ちゃんと、事前に教えてくれれば空けておくから、さ…」

そう小さく呟いた冬樹に、長瀬は目を丸くすると次の瞬間抱きついた。

「ぅわっ!」
「そーいうトコ、冬樹チャン可愛いーーっ!!」

ぎゅうぎゅうと抱きついてじゃれている長瀬に、冬樹は驚いて「コラッ!離せよっ」…と慌てているだけだったが、気が気でなかったのは雅耶だ。

「……っ…」

そんな二人の様子を見て、モヤモヤしたものが増幅していく。
(でも、ここであまり過剰に反応するのもヘンだし…っ)
うっかりすると二人の間に割って入って、長瀬を突き飛ばしてしまいそうになるのを必死に自制心を働かせて耐えていた。



駅前で長瀬と別れた後、冬樹と雅耶は二人並んで歩いていたが、互いの家へと向かう分かれ道に差し掛かると、雅耶は突然「家まで送って行く」…と言い出した。
「…別に平気なのに…」
「もう夜も遅いし、前のことがあるから心配なんだよ」
そう言うと雅耶はまた、あの大人びた表情で見つめて来た。
「このまま別れたら、俺…気になって眠れないよ…」
そんなことを真顔で言ってくる雅耶に。
「そ…そう…。まぁ、いいけどさ…」
冬樹は慌てて目を逸らすと、再び歩き出した。
思いのほか、頬が熱い。

(オレ、あの雅耶の真顔…苦手だ…)

何故だかドキドキするから…。


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