ツインクロス
キミに会いたくて
月も変わり、八月初旬。

毎日のように続いている、真夏日。
ギラギラと照りつける太陽の下、冬樹と雅耶は地元の街から遠く離れた、ある山道を歩いていた。
山道…とは言っても、土が剥き出しの歩道のようなものではなく、しっかり舗装された道路である。
ここに辿り着くまでに幾つかの電車を乗り継ぎ、途中の小さな町までは本数の少ないバスに乗って来た。だが、目指す場所まではバスなど公共の交通機関は皆無だったので、暑い中ではあるが二人は歩いて行くことにした。

都会の街とは違う空気。
暑さは街中に比べれば断然涼しいのだが、何よりアスファルトの照り返しが強く、それだけで無駄な体力を削られていくような気がした。
時折車は通るが、それも稀だ。
ましてや二人のように歩いている者は何処にも見当たらない。
ただ、風に揺れる木々の葉擦れの音と、都会では殆ど聞くことのない珍しい鳥の声。そして、何より暑さを増幅している多くの蝉の声が周囲を包んでいた。


「飲み物、幾つか駅前で補充してきて良かったなっ。店はおろか自動販売機さえ全然見当たらないもんな。これ、水分なしじゃ流石にヤバかったよ」
雅耶が爽やかに笑いながら言った。
「…そうだな」
冬樹は相槌を打ちながらも。

(何で、お前はそんなに元気なんだ…)

明らかな体力の違いを見せつけられて、少し悔しい思いを抱いていた。
僅かに息が上がっている冬樹を見て、雅耶は今度は真面目な顔になった。
「…大丈夫か?冬樹…。少し休憩するか?お前まだ本調子じゃないんだし、あんまり無理するなよ?時間はまだあるんだし…」
こちらの様子を伺い見ながら、そんな気遣いまで見せる余裕。

(でも、ホントに相変わらず心配性…)

冬樹は思わずクスッ…と、笑うと、
「大丈夫だよ。心配してくれてサンキュ…」
そう言って、途端に軽くダッシュした。
「あっ!待てよっ。置いてくなっ」

雅耶も負けじと追い駆けて来る。
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