ツインクロス
そう…。もうすぐあの日がやって来るのだ。

八度目のあの日が…。

後悔してもしきれない、運命を変えてしまった日。
大切なものを…たくさん失った日。


視線を上げると、哀しげな瞳をしている雅耶と目が合った。
そのあまりの消沈ぶりに、冬樹は思わず微笑みを浮かべると。
「お前までそんな顔するなよ。別に、大したことないんだからさ。それに、何かやってる方が気が紛れて良いんだ…」
「………」
言葉が上手く見つからないでいる雅耶に、冬樹は静かに言葉を続けた。
「これでも今年はすごく楽な方なんだよ。気持ちの面で落ち着いているからなのかも知れない」
「…落ち着いてる?」
聞き返してくる雅耶に、冬樹は小さく頷くと。
「この家にこうして居ること自体、オレにとっては凄い進歩だよ」
そう言って、笑顔を見せた。


ずっと、ずっと…。
一人残されてしまったという現実を思い知らされることに恐怖を抱いていた。
何処かでまだ『過去の幸せ』を引きずっていて、ずっと諦めきれなくて。
そして、自分のせいだと己を責めながら、自分を追い詰めることでしか赦されないような気がしていた。

でも、今は…。

話しを聞いて受け止めてくれて、協力してくれる清香先生がいる。
居場所を提供してくれて、いつでも優しく気遣ってくれる直純先生もいる。
明るくて楽しい、学校の仲間達も。

そして、雅耶…。
お前が偽りのオレさえも認めてくれたから。
今は、ここが自分の居場所だって思えるようになったんだ。



「お前のお陰でオレは…すごく救われてるよ」
「…えっ?」
「これまでの八年間が嘘のように今のオレが心穏やかなのは、全部雅耶のお陰だ…」
そう言って、こちらを真っ直ぐに見詰めてくる冬樹に、雅耶の心臓は高鳴った。
「…冬樹…」
「お前には、甘えてばかりで本当に悪いとは思うんだけど…さ」
今度は伏せ目がちに、何かを考えるように話し出した冬樹に。
「別に悪くなんかないだろ…」…と、言い掛けた雅耶だったが、続けられた冬樹の言葉に目を見開いた。
「甘えついでに…お願いがあるんだ…」
「…お願い…?何だよ?改まって…」
首を傾げる雅耶に冬樹は僅かに微笑みを見せて頷くと、一呼吸置いてから意を決するように口を開いた。

「今度、付き合って欲しい所があるんだ…」


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