ツインクロス
二人して電柱の陰に身を隠しながら、向こうの様子を伺う。
やはり、物陰に数人が潜んでいるようだ。

(…面倒だな。家に帰ることも出来ないなんて…)

ここでいくら引き返したとしても、自分を追っている以上は、明日や明後日になろうとも、ずっとあいつらは此処を張っているのだろう。
正直、勘弁して欲しいと思う。でも…。
「…結局、逃げ切ることなんて出来ないんじゃないかな…」
ぽつり…と、夏樹は呟いた。

「…えっ?」

そんな、らしからぬ弱音の言葉を耳にした雅耶は、慌てて夏樹を振り返った。
「だって、狙いは決まっているんだ。向こうだって、データを手に入れるまでは、ずっと追い掛けて来るんじゃないのかな?…そんなんじゃ、今逃げようと、結局は時間の問題だと思うんだ」
「だからって、話し合って解決するような相手じゃないだろう?」
「そう…かも知れないけど…。何か…あいつらの法的な罪の証拠を掴んで警察にでも動いてもらわない限りは、どうにもならない気がする…」
「…警察、か…」
二人見つめ合いながら、どうするべきか思いを巡らせていた。

「…そうだ。直純先生は?先生の知り合いの刑事さんに相談するっていう手がある」
「…う、ん…」

確かに、以前誘拐事件でお世話になったあの刑事さんになら説明するにも話は早い。だが…。

(また、直純先生に迷惑掛けちゃうな…)

自分は、皆に迷惑かけてばかりだ…。

その時、停車している車の傍まで来ていた一人の男が、こちらに気付いた。
何やら声を掛け合い、こちらに向かって走って来る男達に。
「…っ!?気付かれたっ。逃げるぞっ」
雅耶と夏樹は元来た道を戻って走った。

夜の静かな住宅街を、全速力で駆けて行く。
どれだけ本気で走っても、足の長い雅耶の方が断然に速く、必然的に夏樹が雅耶の後について行く形になる。
ひたすらに住宅街を駆け抜けて、丁字路へと差し掛かった時。

「…っ!!」

別の道から回り込んで来たのか、怪しげな男達が反対側から出て来た。
雅耶が構える前に、素早く一人の男が殴り掛かってくる。
だが、雅耶は瞬時にそれに反応すると攻撃を受け止めた。

「まさやっ!!」

だが、その後から来たもう一人の男も加勢に入る。
「…くっ!冬樹っ逃げろっ!!」
雅耶が二人相手に応戦しながら、声を上げた。
「でもっ!」

(雅耶を置いてなんか行けないっ!)

すぐに自分も加勢に入ろうとするが、
「いいから行けっ!早くっ!!」
本気で雅耶に怒鳴られて、思わず踏み止まった。
その間にも、男達の打撃や蹴りが雅耶を襲う。
そんな男達を相手にしながらも、動けずにいる夏樹に雅耶は視線を流して来る。

『俺を信じろ』

雅耶の瞳が、そう言っている気がした。

(…雅耶!!)
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