ツインクロス
その頃、久賀家では。
「えっ?優勝したのっ?あんたがっ?」
雅耶の母親は信じられないという顔をして、トロフィーと賞状を交互に見た。
「驚きでしょ?俺自身もビックリだもん」
雅耶はそんなことを威張って言いながら、浴室へと向かった。
「だから、祝勝会と打ち上げを直純先生のお店でやるんだって。俺、シャワー浴びて出掛けるから…」
「あら、そうなの?そんなにすぐ始まるの?」
廊下にいる母親と脱衣所から会話をする。
「いや…打ち上げは5時半からなんだけど。今さー冬樹が隣に来てるんだよ」
雅耶はTシャツを脱ぎながら言った。
「冬樹くんが?…ああ、それで何か業者さんが来てたのね」
そんな母親の言葉に。
「は?業者…?何ソレ?」
脱衣所から顔を出すと、母親の顔を見て聞き返す。
「何かね、今朝何処かの業者の人みたいなのが、お隣に来てたのよ。作業着の…」
「…ふーん…?」
(そんな話、冬樹してなかったけどな…)
雅耶は疑問に思いながらも、とりあえずシャワーを浴びることにした。
冬樹はリビングを少し覗いた後、自分達の部屋があった二階へと移動していた。
家の雨戸は全て閉じられていて家の中は薄暗かったが、雨戸のない小窓や隙間からの光で、歩く分には困らなかった。
家の中は、全体が埃っぽい以外はあまり以前と変わりなかった。家具や小物など、殆どそのままの形で残されている。でも、家の管理を任されている伯父が、時々訪れたりすることがあるのだろうか。床にはあまり埃がなく、靴下が黒く汚れるようなことはなかった。
二階の子ども部屋へ入ると、そこも殆どそのままの形で残されていた。
布団が敷かれていない、空の二段ベッド。
対のように配置されている同じタンス、そして机。
だが、一方の机の上にだけ…赤いランドセルが置かれていた。
(これは…『夏樹』の…)
冬樹は、以前自分が使っていたそのランドセルを手に取った。
埃にまみれてしまったそれ。
これも、兄とお揃いのメーカーの色違いだった。
(これ買って貰った時は、この赤いランドセルが嬉しくて仕方なかったのに、ふゆちゃんと雅耶が同じ黒のランドセルで…『お揃いズルい!一人だけ赤なんてヤダ!』…って駄々こねたんだよな…)
溢れてくる思い出に…。
懐かしさに、涙が出そうになる。
思い出に浸っている冬樹は、気が付かなかった。
この家の中に潜む、もう一つの影がいたことに…。
その影は、冬樹の動向を確認しながら。
そっと気配を消して、ある機会を窺っていた。
「えっ?優勝したのっ?あんたがっ?」
雅耶の母親は信じられないという顔をして、トロフィーと賞状を交互に見た。
「驚きでしょ?俺自身もビックリだもん」
雅耶はそんなことを威張って言いながら、浴室へと向かった。
「だから、祝勝会と打ち上げを直純先生のお店でやるんだって。俺、シャワー浴びて出掛けるから…」
「あら、そうなの?そんなにすぐ始まるの?」
廊下にいる母親と脱衣所から会話をする。
「いや…打ち上げは5時半からなんだけど。今さー冬樹が隣に来てるんだよ」
雅耶はTシャツを脱ぎながら言った。
「冬樹くんが?…ああ、それで何か業者さんが来てたのね」
そんな母親の言葉に。
「は?業者…?何ソレ?」
脱衣所から顔を出すと、母親の顔を見て聞き返す。
「何かね、今朝何処かの業者の人みたいなのが、お隣に来てたのよ。作業着の…」
「…ふーん…?」
(そんな話、冬樹してなかったけどな…)
雅耶は疑問に思いながらも、とりあえずシャワーを浴びることにした。
冬樹はリビングを少し覗いた後、自分達の部屋があった二階へと移動していた。
家の雨戸は全て閉じられていて家の中は薄暗かったが、雨戸のない小窓や隙間からの光で、歩く分には困らなかった。
家の中は、全体が埃っぽい以外はあまり以前と変わりなかった。家具や小物など、殆どそのままの形で残されている。でも、家の管理を任されている伯父が、時々訪れたりすることがあるのだろうか。床にはあまり埃がなく、靴下が黒く汚れるようなことはなかった。
二階の子ども部屋へ入ると、そこも殆どそのままの形で残されていた。
布団が敷かれていない、空の二段ベッド。
対のように配置されている同じタンス、そして机。
だが、一方の机の上にだけ…赤いランドセルが置かれていた。
(これは…『夏樹』の…)
冬樹は、以前自分が使っていたそのランドセルを手に取った。
埃にまみれてしまったそれ。
これも、兄とお揃いのメーカーの色違いだった。
(これ買って貰った時は、この赤いランドセルが嬉しくて仕方なかったのに、ふゆちゃんと雅耶が同じ黒のランドセルで…『お揃いズルい!一人だけ赤なんてヤダ!』…って駄々こねたんだよな…)
溢れてくる思い出に…。
懐かしさに、涙が出そうになる。
思い出に浸っている冬樹は、気が付かなかった。
この家の中に潜む、もう一つの影がいたことに…。
その影は、冬樹の動向を確認しながら。
そっと気配を消して、ある機会を窺っていた。