私たち暴走族と名乗ってもいいですか?(下)
今まで足蹴りにしていた瞬桜から興味を失くした兄貴は笑みを浮かべたまま近づいてくる。
その笑みが単純に喜びだけでないことははっきり分かる。
歓喜、憎悪、狂気。
正反対ともいえるような感情をこいつは笑み1つだけで浮かべて、近づいてくる。
「探したんだぜ?2年間、ずっと、お前を探し続けた」
「…」
「まさか、こんな腰抜けどもの中にいたとはな。てめぇはガキの遊びでもしてたのか?」
目の前に足が止まる。自然と足がすくむ。
今すぐ逃げ出したい衝動に駆られているのに足は動かない。
今逃げたら、ここにいる全員がどうなるか分からない。
もうこれ以上、俺のせいで誰かが傷つくのは嫌だ。
「…もう逃げない。戻る」
「当たり前だ。…で、必死に探した兄貴に謝罪の1つもねぇのか」
声のトーンが下がる。途端にあふれた覇気…いや、殺気に緊張が走る。
だけど、この殺気を秋奈や瞬桜が向けられていたことを思うと怒りで、体は捕えられなかった。
「ねぇよ」
俺は、ここにいたことを後悔しない。兄貴から逃げたことを後悔しない。
後悔するとすれば、それは志季を俺の事情に巻き込んでしまったこと。
それだけだ。