冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
「少し待ってくれ」
寝室を出てリビングに行くと、一度スマートフォンをテーブルに置いて素早くTシャツを身につけ、すぐに拾い上げて耳に当てた。
「悪い。話してくれ」
「本当にいいのか? さっき、女の声がしたが」
「気にしなくていい。いつもの事だよ」
「……またか。いい加減、恋人をつくったらどうだ?」
聖呀の言いたいことは、瑞季にも分かる。
バーで引っかけた女との、一夜の体だけの関係をやめて、真剣に伴侶となるべく生まれた女を探せと言いたいのだ。
瑞季たち人狼には、定められた伴侶が必ずいる。
出会えば、すぐに分かる存在である魂の片割れ。
だからこそ、瑞季は出会いたくないと思っている。そんな存在に出会ったら、魂と心が完全なモノになるかもしれないが、無くした時には再起不能なほど粉々に砕けてしまうだろう。
世界が色を失い、苦痛だけの世界が広がる。