冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
かつて、瑞季は本気で一人の女を愛した。
伴侶ではなかったが外見の美しさ以上に内面が美しかった彼女に、十八歳から二十六歳までの間、心と肉体、人生を捧げていた。
なのに相手は裏切り、残されたのは一生消えない痛みと傷だけ。
たった一度の裏切りが、瑞季の恋愛に関する考え方を永遠に歪めてしまった。
伴侶でもない相手でさえそれほど深い傷を残せるのだから、もしも運命の伴侶に裏切れるような事があったらと考えるとーー。
苦い記憶を思い出し、思わず唸り声に近い声が出てしまう。
「さあ、話せよ」
「実は……エミリがな」
疲れと動揺が混じった声を聞き、玄関でブーツに足を突っ込んで部屋を出た瑞季は足を止めた。
自然と閉まったドアの音が、やたらと大きく響く。