無糖バニラ
「それを見られたくなくて、夏でも長袖なんだね。日焼け対策じゃなかったんだ」

「ううん、あたしはね、別に傷跡とか気になんないんだ。もう痛くないし」

「え、じゃあ、暑いだけじゃない?」


首をかしげる仁奈に、あたしは苦笑い。

傷跡を触る癖は、直りそうにない。


「翼が悲しそうな顔するから、これ見ると。だから、翼がいるところでは腕出したくないの」


翼はいつも、目を細めて切ない表情でこの細い傷跡を見る。

それが苦しくなるから、袖を伸ばして隠すことに決めた。


「あたし、嫌われちゃったから。ちょっとでもめんどくさいって思われたくないっていうか……」


何でよけられなかったんだろう。
カッターを持っているのは、ちゃんと見えていたのに。

そばにいるだけで、トラブルばかり引き起こすあたし。

翼はきっと、嫌になったんだ。


「違うよ、このは、芦沢くんって……」


――キーンコーンカーンコーン……。


休み時間終了のチャイムが鳴って、仁奈の言葉尻は聞こえなかった。
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