無糖バニラ
今日は長袖じゃないんだった。

直に触れる、少し皮膚が盛り上がったそこは、爪を立てればすぐにまた血が滲みそう。


「……俺、やっぱり先行く」


苦しそうな表情をした翼が、ぽつりと言葉を落とした。

そんな顔しないでって言ったのに。

……絶交するって言わなくて良かった。


「っ……」


引き止める言葉を持ち合わせていないあたしは、空中で手を止めた。

自分で言ったんじゃん。小嶋くんの彼女だから、って。


黙って翼の背中を見送ろうとしたら、ドンッと背中の重い衝撃があって、一瞬息が止まった。


「っけほ……、え?」

「おっはよー、このは」


仁奈が、後ろからあたしに抱きついていた。
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