プリズム!
力のことも気にはなりながらも、あの事件以降色々と忙しかったのもあり、特に連絡を取ったりすることはしなかった。

本当は、あの日の力の行動について色々聞きたいことも問いただしたいことも沢山あった。

だが、事件のことに関しては、力は無関係なことが今は分かっているし、きっと力も自分の父親のことで苦しんだに違いないから…。

力にされた仕打ちを忘れるつもりはないけれど、今更責めるつもりもない。


ベンチの傍まで来て、戸惑いながらも自分を見下ろしている力を無言で見上げる。

(…何か雰囲気、変わったな…)

少し見ない内に随分と落ち着いた感じだ。

(きっと、おじさんが警察に捕まったことで、力の生活も今まで通りに…とはいかないんだろうな…)

運転手付きの高級車で学校へ通っていた過去を思えば、今までの生活が恵まれ過ぎていたような気もしないでもないが、その分境遇が変わったことで苦労などもきっと色々あるのだろう。

そう思うと、少し気の毒な気もした。




「お前…、本当に夏樹に戻ることが出来たんだな…」

力は周囲にいる者達には聞こえないように、僅かに声を落として呟いた。

その言葉に夏樹は視線だけで肯定してくる。

「雅耶に聞いてはいたんだけどさ…」

「そう…」

小さく呟くと僅かに瞳を伏せる。

その姿は、どう見ても女の子そのものだった。
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