プリズム!
「まぁ、複雑なところだと思うよ。八年も経ってたらさ。でも逆に、八年前のあいつが周囲に知られずによく『冬樹』を演じられたなって、そっちの方が驚きだよな?精神状態を考えたら、感心を通り越して、ちょっと悲しくさえなるよ」

「小学二年生の時…って言ったか?」

「そ。尋常(じんじょう)じゃないよな?それじゃなくたって家族を失ってひとりぼっちになってしまった子が、さ…」

それも親戚の家に世話になっていたと聞く。

「でも、その八年があったからこそ今のあいつがいるんだ。そのままで良いんだよな?それが夏樹自身なんだから…。男も女も関係ないんだよ」

「…本人は、何かコンプレックスを感じてるようだけどな」

「うーん…。でも(ちまた)の女の子達だって、大して『女の子』意識してないよな?そんな定義みたいなものは今時ないだろ?まぁ言葉使いとかがあんまり酷いと、聞き苦しいとかはあるかも知れないけどさ」

店内を何気なく見渡しながら直純は言った。

現在残っている客の中にも女性客が数人いるので声は控えめだ。

だが、そんな直純に「それはお前の価値観だろう?」と仁志は苦笑を浮かべてツッコミを入れ、「そ。俺の好みの問題」と直純は軽くウインクで応えた。
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