fermata
「ピアノは好き?」

 今日も洋館の二階は窓が開き、カーテンが躍っている。

「うん」

 私は前を向いたまま答える。

「弾ける?」

「弾けない」

 かすれた声は、少し笑ったようだ。

「ラフマニノフ」

「知ってる。世界で一番難しい曲」

「それは協奏曲第三番」

 そう言った後、聞き覚えのある曲が流れた。
 静かに入り、徐々にテンポが上がっていく。

「これは第二番」

 曲が終わったところで、かすれた声が言った。

「世界で一番難しい曲、弾いてみて」

 言ってみると、またかすれた声は笑ったようだ。

「今度ね」

 そして、協奏曲第二番によく似た前奏曲が聴こえて来た。
< 5 / 11 >

この作品をシェア

pagetop