夏を殺したクラムボン
「川の近くで殺人事件が起きたのか?」
「せんせー、諒、推理小説オタクだから」
浜田の明るい声で誰かが笑い、沢田は
「いつも読んでるもんなぁ」
と成海を見た。
成海は目を逸らし、角に置かれた推理小説を机の中に静かにしまう。
ジジ、と何かが焦げたようなセミの羽音を近くで聞いた気がした。
「これ、性格でるな」
窪田が全員に聞こえる程度の音量で話し、その後に周を一目した。
「そうかもなー」
沢田は黄のチョークで『人間』を囲み、授業を進める。
「じゃあ、次は……」
――
休み時間になった。
号令を終え、成海は床のリュックから黒い水筒を取り出し、麦茶を口に含んだ。独特な味が口内を満たし、乾いた喉を潤す。
水筒をリュックに戻すと浜田に肩を叩かれ、成海は緩慢な動きで後ろを向いた。
「朝の話だけどさー」
浜田は声をひそめた。
「……犯人、気にならねえ?」
「何の?」
「シッ!……ほら、だからさ、あれだよ。最近めっちゃ殺されてるらしいじゃん。……とか、……とか、この前の猫とか」
「犯人捜しってこと?」
成海が呆れて浜田を見返すが、彼の目は真剣で、どことなく楽しげだった。少しばかり口角を上げて、浜田は言葉を紡ぐ。
「諒も聞いたこと知ってるだろ。最近、動物を殺してるのはこのクラスの……“葉月かもしれない”ってこと」
ため息をつき、成海は半眼した。