夏を殺したクラムボン
「浜田を殺した犯人と小動物を殺す犯人が同一人物なら、わざわざ浜田の葬式の日を狙って犯行を行う理由がない。犬を殺してる途中で見つかって逮捕されれば、否が応でも疑われることになる。
もちろん、葬式の日だったってことを知らなかったり、衝動に襲われたりって可能性もあるけど」
周はとうとうと話し続ける。
時刻は7時15分になっており、朝練をしにやってきた野球部の部員たちの声が校庭から聞こえてくる。教室の温度は、上がり始めている。
どこかで蝉が鳴いた。
「多分、犯人はこの街に二人いるのよ。浜田を殺した犯人と……」
「犬を殺した犯人」
周の声を遮りそう言った成海は、背もたれに身を任せてため息をついた。
「そもそも、葉月はどうやって犯人を捜すつもりなんだ?」
周はうつむき、声をひそめる。
「……小動物を殺している犯人は、このクラスにいるような気がする。だから、1人1人にアリバイを訊いて……」
「どういうこと?先に浜田の犯人を捜すのか?それとも犬を殺した犯人?」
「犬を殺した犯人のことよ」
成海は呆れたように目を細め、周に視線を向けた。
「アリバイを1人1人確認するのは警察でもない限り無理だ。嘘をつかれたら、僕らには確認する手立てがない。推理小説でもないから、そう簡単には確かめることもできない」
「……きっと笑ってる。私がみんなに疑われているのを見て、犯人は笑ってる。そいつを捕まえるだけなのに」
「誰も笑っていないけど」
「じゃあなんで私が疑われるの?」
……僕は葉月を笑ったことなんてないのに。
成海は椅子から体を持ち上げ、前方の扉に足を進めながら言った。
「そんなの、ただの被害妄想だ」
水を飲んでくる。水筒を忘れたから。
ただそれだけを言い残し、成海は教室から出て行った。